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講義09 バラードでの歌心を研究しよう!
2013/11/19
ベース・マガジン12月号連動
亀田のベース・ラインを解説!
皆さん、こんにちは!亀田誠治です。この連載では、僕がこれまでに手がけた作品のなかから、ベース・プレイをひとつピックアップして解説します。9回目となる今回は、アンジェラ・アキさんの「サクラ色」の、Bメロからサビにかけてをピックアップ。バラードに対する、歌心のあるなめらかなベース・アプローチを研究してみましょう。

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「サクラ色」 |
◎ベース・プレイの成り立ち
この曲は、ベース・プレイだけでなくアレンジも僕が手がけたのですが、サビでチェロとユニゾンしたり、オーケストラの一部を担いつつも全体のリズムを作り出すなど、ベースがいろんな役割を担っています。こういうことができるのも、ベースならではの醍醐味ですね。また、僕はこの曲をピックで弾いています。通常、バラードなどでは、ニュアンスや音を切るポイントをコントロールしやすいために2フィンガーで弾くパターンが多いと思うのですが、ピックのサウンドも捨てがたいですし、いろんな表情が出せるのでこの曲ではピック弾きをチョイスしました。また、ピック弾きについては、カーペンターズで弾いていた、ジョー・オズボーンのプレイをぜひ参考にしてほしいです。
◎フレージングのポイント
まずこの曲は、サビのベース・ラインにポイントがあります。サビの各小節1拍目は、ルート音に加えて16分音符でフレーズを動かしています。"恋しくて〜"と歌のメロディが伸びていくなかで、ドラマーがハイハットで"チキチーチー"と鳴らすような符割でベースを弾くことにより、リズムをなめらかに転がすという役割を担っているのです。
そして、その16分の細かい音をどう選ぶかということもポイントで、キーがFであるこの曲では、B♭のコードでは半音下、4小節目のDm7のコードでは1音下の音を弾いています。ルート音に半音などを加えることで、コード感が濁るのでは?と心配なさる方もいると思うのですが、半音下の音が入ることでハーモニーが充実するというか、織りなすハーモニーのテクスチャー(質感)がちょっと複雑になり、ハーモニーに潤いを持たせることができるのです。サビに入ったときに広がる景色が、半音当てることで豊かになりますし、長い音符を弾くだけではなく、伸びている歌のメロディに対して細かい音符を入れることで、うねりを生み出すのです。
次回「脱・初級のベース演奏能力向上セミナー」12/19更新
ベース・マガジン11月号で紹介した「キラーチューン」において、作曲クレジットに誤りがありました。
正しくは作曲:伊澤一葉になります。読者ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げ、訂正させていただきます。

ベーシストとして、メンバーに喜んでもらえるときほど嬉しいことはない。(亀田)
- 亀田
- そもそも、一番最初にどうやって楽器を手に入れたんですか?
- 藤本
- 当時、私の家の近くにあるショッピング・モールに楽器屋さんがあって。で、最初は初心者セットにすれば?って言われたんですけど、無理を言ってフェンダージャパンのプレベを買ってもらったんです。ちなみに偶然なんですけど、津野さん(津野米咲/g,cho)も同じお店で楽器を買っていたんですよ。亀田さんは、最初にヤマハのBBを買ったんですよね?
- 亀田
- 中学2年生のときにグレコのリッケンバッカー・タイプを買ったのが最初ですが、高校2年生のときに、お金を貯めてヤマハのBB2000を買ったんです。
- 藤本
- 私もBB2000を持ってるんです。そのフェンダージャパンの次に、楽器屋さんで中古を見つけて買いました。
- 亀田
- ホントに!?何色?
- 藤本
- リス色です。
- 亀田
- リ......リス色!?
- 藤本
- 木目のナチュラル・カラーで、ネックのうしろに線が2本入っている、スルーネックのタイプです。"シマリスちゃん"って呼んでいます(笑)。今メインで使っているベースを手に入れるまでは、ずっと使ってましたね。
- 亀田
- なるほど。僕は1966年のフェンダー・ジャズ・ベースを買ったとき、そのBB2000のフレットを抜いてフレットレスにしちゃったんです。いずれにしろ、楽器を買うにも決意みたいなものは必要ですよね。バンドでデビューしようって、当時から考えていたんですか?
- 藤本
- 夢はありましたね。そもそも、ベースを買ってから、もう弾くことが楽しすぎて"こんな楽しい楽器あるんだ"って思ってました。中学生のときにアコギを買ってもらったんですけど、全然弾けなくて。でもベースはすんなり始められたし、そこから本当に楽しくて、寝る間を惜しんで弾いてましたね。
- 亀田
- そのときはどんな練習をしていたんですか? コピーとか?
- 藤本
- そうです、コピーでした。で、自宅のリビングでよく弾いてたんですけど、家族も私が練習している曲を覚えて、東京事変の「閃光少女」などは母が鼻歌でよく歌ってましたね。
- 亀田
- ちょっと待って!僕にとって「閃光少女」って昨日のことくらい最近の話なんだけど(笑)。でも、リビングでベースを弾くって、すごくオープンな環境だったんですね。それは今の藤本さんのスタイルに出ているかもしれませんね。ひとりの世界に入っていく感じじゃなくて、人に伝えていくものというか......。あと、音楽をプレイすること自体が目的になってるんですよね。"音楽でメッセージを伝えたい"っていうよりも、まずは、音楽を聴いていて、もしくは弾いていて幸せだ!っていう。僕もそういうタイプなんですが......。
- 藤本
- 確かに、好きな曲を電車のなかで聴いているだけでハッピーですね。"ああ、良い曲だなぁ"って。
- 亀田
- そのうえで、赤い公園の場合は、メンバー同士でメンバーのことを好きって言えるのも素晴らしいです。
- 藤本
- でも、私の場合はその気持ちを表に出しすぎてメンバーから嫌がられるときもあります。"もうわかった、もういいよ"って(笑)。
- 亀田
- (笑)。ちなみに、みんなでアレンジしていく段階で、米咲ちゃんの頭の中で鳴っている音に加えて、自分なりにベースのフレーズを変えていくことはあるんですか?
- 藤本
- 曲にもよるんですけど、ベースのフレーズがしっかり決まっているときは変え過ぎないほうがいいことも多いです。逆に、自分なりのフレーズに変えた結果"いいねぇ"って褒めてくれたときは本当に嬉しいです。
- 亀田
- 褒めて伸びるタイプなんですね。
- 藤本
- そうなんです(笑)。でも、米咲のなかで鳴っている音と、あまりにもかけ離れすぎちゃうのはちょっと違うなっていう思いがあって。やっぱり、その曲が好きでベースを弾いているわけだから、作った人の思った通りにならないのは、私のなかですごく嫌なんです。そのなかで"ここまでやっていいのかな?"ってときもあるし、"でも、こう弾きたいなぁ"っていうのもあるから、その間でいつも戦っています。
- 亀田
- 結局、ベーシストとして、メンバーに喜んでもらえるときほど嬉しいことってないですよね。
- 藤本
- そうなんです!以前、シングルのカップリングで小田和正さんの「さよならは言わない」っていう曲をカバーしたんですけど、アウトロで自分なりのベース・ソロみたいなのを考えて弾いたら"めっちゃ良い!"って言ってくれて嬉しくて。ダメなときは"あ、それいらないから"ってバッサリ切られるんですけど(笑)、良いときはすごく褒めてくれるから。
楽器にも人にも、あとはぬいぐるみにも(笑)ちゃんと愛をもって接したい。(藤本)
- 亀田
- 今、こうやって藤本さんの話を聞いていると、僕らが忘れがちな音楽家としての基本的な気持ちを教えられているような気がします。信頼できる相手がいて、その人に喜んでもらう。音楽や物を作るときって、"自分発信じゃないとダメ"みたいな風潮がありますよね。でも、僕はそれだけではないと思っていて。与えられたものに何かしら自分の思いを込めて、言われたままを返すっていうこともすごい大事だと思うんですよね。"僕はあまのじゃくで、自分のアレンジを入れたくなるんだよね"っていうのも悪くはないんだけど、必ずしもそれが当てはまらないときもあると思っていて。東京事変の場合、キーボードのわっち(伊澤一葉)の曲は、ベース・ラインを全部譜面に書いていました。わっちの書く曲が好きだし、だったらわっちの考えてきたフレーズをやってみようって思っていたんです。結果、作曲者が考えてきたままが良かったりするんですよね。逆に考えると、自分ひとりでやっていたらできないことが、事変のなかにいたらできるわけ。
- 藤本
- 私も"あのベース・ライン、良いねー"って言われても"あ、あれは米咲が考えてきたのなんです"っていうときもあるんですけど(笑)。でも、曲のことを素直に褒めてくれるのは嬉しいので。
- 亀田
- だって自分が褒められるってことは、その曲や音楽が褒められていることだから、嬉しいですよね。ホント、今日は忘れがちなことを教わった気がしますね。
- 藤本
- 高校生のころ、亀田さんが表紙になったベース・マガジンを、すり切れるほど読んでいたんですけど、そのなかで衝撃だったエピソードが"当時付き合っている人がいたけど、デートをすっぽかしてベースの練習をしていた"っていうもので。
- 亀田
- 僕のなかでは当然だったかも(笑)!ベースの練習が大事!
- 藤本
- あと、パンをかじりながらベースを練習していたとか。
- 亀田
- ご飯は両手を使うけど、パンはくわえながら練習できますからね(笑)。
- 藤本
- そのエピソードが衝撃すぎて。私ももうちょっとストイックになろうって。そういう点でも影響を受けてます。
- 亀田
- 実際、楽器と長い間一緒にいることで自信がつくと思うんです。
- 藤本
- そうですね。"練習した"っていう事実が、自分のなかで最も大きな自信になります。きりがないんですけど。うまくなったっていう気も全然しないし、自分を許せるっていうことは絶対になくて。終わりが見えないから楽しいっていうのもあって。
- 亀田
- 今の時代、自分よりうまい人ばかりだと思っているんですけど、でも楽器を弾いたり音楽を聴いているだけで楽しいし、幸せで。あとバンドやみんなで合奏をできるときの喜びたるや、ねぇ。特別な幸せを与えてもらってるから、僕たちは僕たちの作る音楽をいろんな人に届けたいですし、感じてもらいたいです。
- 藤本
- 亀田さんの音楽からはそれがすごく伝わってきます。"やっぱり愛があるなぁ"って。
- 亀田
- ありがとうございます。
- 藤本
- 私、愛がある人は本当に好きです。だからこそ自分もちゃんと愛をもって、楽器にも人にも、見知らぬ人にも、あとはぬいぐるみにも命を吹き込んで、何事にも接したい。私もまだまだこれからですけど、人を見て日々勉強したり、教えてもらうことも多いし、一人前になれるように頑張ります。

次回「亀子の部屋」12/19更新

ベース・マガジン2013年12月号 11月19日発売
http://www.rittor-music.co.jp/magazine/bm/